歌手なのがもったいないくらい「アントキノイノチ」さだまさし
題名はふざけているのに涙止まらないよ。
『アントキノイノチ』さだまさし
しかし、これなんか読むとほんとさだは歌手でなく小説家なのではないかと思っちゃう。天は二物を与えるよ、まったく。才能ってすごいね。
主人公は人が死んだあとにその部屋を掃除する「遺品整理会社」として就職する。彼は有る同級生の「悪意」をきっかけにその男を2度殺しかけ高校を中退したのだった。。。
まず文章がとっても読みやすい。この話し、過去のパートと現在のパートが交互に進むのだが、下手な小説家だとそこをごちゃごちゃさせてしまう。しかしさだは視点を一致させてすっきりと纏めている。だからすんなりと頭にはいるんだよね。
これ、なかなかうまくできないんだよ。ほんと文が下手な小説家だとここで読み手が混乱してしまうんだよね(残念ながらそんな小説はミステリに多い)。さだが内容だけでなく技量的にも一流の「小説家」だということがわかる(わかったか、太田光!)。
そうそう、内容、内容。これも実にいい。良くあるんだがあまり顕在化されない「悪意」。この人間のいやらしさも実に上手にさだは描いている。これ、あるんだよ。僕らは訴えられないレベルでそんな悪意に振り回される。そしてその悪意の嫌なことったら。「良い」者でなく「悪い」者も実にさだは上手に書くんだ。
そして、そんな悪意に苦悩しながらも主人公は復活し、立ち向かう。最後にはその悪意さえ許してしまう主人公。
「人の心ってさ、本当は案外強いんじゃないかな」
そう語る彼の視線は真っ直ぐだ。その強さに、優しさに心を奪われる。これは自己の創生の話しではないかと思ってしまった。
基本、さだは性善説なのだろう。いや、性善説は違うな、そうそう昔の音楽でないけど「最後に愛は勝つ」。之なのかもしれない。だから読んでいて散々いやらしいことがあったが最後は清々しくなる。
悪意のあった友人に対し最後、「元気ですか!」と投げかける主人公は爽快だ。彼の言葉に痺れる。僕はこの本を讀み、彼が立ち直ったことに痺れた。
「ありがとう、魔法はとけた」
そう、悪意は悪意を連環する。それでは上手くいかない。これこそがさだのメッセージなのではないかな。やられたからやり返せでなくやられても許してしまうさだのマザーテレサのような思想こそこの本のクライマックスなのかもしれない。