音楽は恩寵だ「ミュージック・ブレス・ユー」(津村記久子)
「音楽について考えることは自分の人生についてかんがえるより大事だと思う」
僕は音楽について語ることに対しある種の気恥ずかしさがある。それは本について語ることもそうなのだが、自分の性行為を見られてしまっているような気恥しさであると思う(平気でノーミュージックノーライフと声高にいいそれを是とするような気持ちにはなれないのだ)。まあ、ここネット上ではその気恥ずかしさを見てほしいのでぐいぐい書くのだがこれは恥ずかしさがひっくり返っての露悪趣味だと思っていただきたい(まあいうなれば自意識がどうにも肥大しすぎている中二の様なものなのだ)。
で
実は音楽はかなり好きだった(これ過去形)。以前は音楽を聴いてない自分なんかあり得なかったしどこでもヘッドホン装着オンで、リズムマシーン作動であった。高校のころからジャズを聴きコルトレーンの薫風を受け、セロニアスモンクのピアノの酔いさらにはフリーに傾倒し、セシルテイラーや山下洋輔のどうきても騒音なインプロビゼーションに心震わせた。畢竟大学でも音楽は無くてはならぬ何事も、そのままテクノのに流れ込んだ。エイフェックス・ツインやケミカルブラザース、更にはジ・オーブや808ステイツなんかを聞き悦に行っていた。
今は音がないのも音楽さ、ケセラセラ、さだまさしで感動している自分がいる。うーん、不思議やね(でもさだまさしはいいと思う)。もうミニマムな音は聴かない。最近はしっかりメロディがあるのが好き。回りまわってゆっくり聞くようになったようだ(まったく昔の自分が今にいたら転向だ!と叱られてしまうだろう)。ほそぼととやくしまるえつこやラヴ・サイケデリコ、ピチカートファイブあたりを聞いている。ここんとこは小沢健二熱も再燃。昔は「あまっちょろい」なんて思っていたのに変わるものだね人生。
というわけで今日は音楽の本を。
『ミュージック・ブレス・ユー!!』津村記久子
「音楽を聴いているとそれを聞いている何分間だけは息を吹き返すことができる」
そうだよ、若いころってまさにその感じだった。
音楽ジャンキーの主人公アザミの高校生活を淡々と描いた作品だ。根底には音楽があるが彼女の受験、友情、恋愛などを実に津村は斜め45°から俯瞰で切り出すのだ。
あのね、青春ものだとやれ友情だ涙だ感動だってぐいぐいくるじゃない。そんなのもう勘弁なんだよ(「君の名は」はいらない)。そこまでの押しつけがまさがないからこの本を読むと実にゆったりする。ほっとする。そしてふっと自分が高校生だったころを思い出してしまう。
そこらへんが津村は上手いなーと思う。そうそう、こんな感じだったよ。人生はノンクライマックス、でもそこに生きている自分がいて少しだけクライマックスだったんだ。それをふっと思い出させてくれる。
登場人物が多いので最初は戸惑ったが(でもその多さこそがアザミの生活でもあるのだよ)、その登場人物たちとの中途半端なつながりに心惹かれた。そうそうそこまでの友情はない、そこまでの恋愛はない。でもそれこそがリアルだと思うんだ。
「音楽は恩寵だった」
この一言に僕は痺れた。そうだ、僕にとっても音楽は恩寵だったんだよ。そんなことをふと思い出した。
ちなみに以前はレコード(CDじゃないよ)をかなり所有し毎日部屋では音楽がかかってました。CDも相当あったとおもう(たぶん三ケタではきかない)。でもそのレコードもなくなった。CDも売っぱらった。
でも本は売れないんだよねえ・・・これがまた。
- 作者: 津村 記久子
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2011/06/23
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