なんて躾いい子、いいケツしてんな「喜劇悲喜劇」(泡坂妻夫)
昭和にいたトリックメイカーは二人だと思っている。
真っ当なトリックメイカーは鮎川哲也。彼は本当に真っ向勝負のトリックを作っていた(追悼)。
そして
真っ当でないトリックメイカーと言えば・・・
泡坂妻夫である。
とんでもない飛び道具の嵐。泡坂はつねに「とんでもない」であり続けようとした。自身がマジシャンであるところからミステリだけでなくマジックにも詳しい。そしてそれもミステリにしてしまう鮮やかさ、いうなれば僕らは彼の小説をあたかもマジックを見るかのように読んでいるのだ。
いやね、僕は泡坂こそすべての新本格の「父」だと思うんだよね。新本格が使う連作短編、館、叙述トリック、言葉遊びは全て泡坂がやっていたのだよ。うん。泡坂なくして新本格はできなかったんじゃないのかなぁ。リスペクトリスペクト。
「11枚のトランプ」では見事の連作短編の冴えを見せ
「乱れからくり」ではこれぞ館ものと驚かせ
「湖底のまつり」ではとんでもないトリックから叙述の楽しさをしらせ
「亜愛一郎シリーズ」では探偵ものの楽しさに目覚めさせ
「しあわせの書」では本自体がトリックになっていることに狂喜乱舞し
「生者と死者」ではトリックを保存させるために本を二冊買わないといけないという謎な仕様をし
「曽我佳城シリーズ」ではミステリの楽しさだけでなく奇術の楽しさも教えてくれた。
で、これも凄いんだよ。
『喜劇悲喜劇』
まず題名で気づくかなぁ。
じゃあ各章の題名も・・・
「ウコン号」「唄子歌う」「大敵がきていた」「期待を抱き」・・・そして最初の章は「今しも喜劇」最終章は「喜劇も終い」
登場人物は
たんこぶ権太、瀬川博士・・・
フフフわかるかなぁ。
そう回文なんです。とにかく徹底的に回文に拘ったとんでもないミステリ。そこかしこに回文が出まくりな本書はもはやミステリなんかどうでもいいぞもっと回文をもっと回文をと思わせる作品なんですよ。
ストーリーは泡坂にしては珍しい(かな?)、スラップスティックコメディな要素もありで肩の荷を下ろして読むことができます。主人公も売れないマジシャンだし、殺人が起きるのは豪華客船だし、とにかく楽しい。僕はこんなおもちゃ箱のような児戯溢れる泡坂の小説が好きです。最後のトリックや動機はうーんという人もいるかもしれないけど(僕はトリックには吃驚したけど動機は確かにうーん)、それも込みで非常に泡坂らしい作品だと思ってます。
というわけでおすすめですよ。ぜひ泡坂読んでみてはいかがでしょうか。泡坂凄いですぜ。
あれ?読まない。みんなスルー?
なんでだ、みな私だけ避けだしたわ、涙出んな。