読みやすさの素晴らしさ「ガール」(奥田英朗)
奥田英朗は手練れである。
特に群像劇を描かせると上手い。正直ホームランこそないものの確実にヒットを売ってくる。安定感アリアリである。だから安心して読めるのだ。
さらに少しだけ「優しい」のもいい。あの「ララピボ」ですら僕は優しいと思った。だって人とかがほんとに悲惨な目には合わないんだぜ。そこらへんのPKO・・・違う、TPOも奥田はしっかり守っているんだなぁと思うのだ。
『ガール』奥田英朗
上手い。
まず小憎らしいほど、バブリーな女たちがいいじゃないか。そこそこいい会社で働いて結構いい給料もらって(確実に僕より上だ)、でも結婚できなくていしししとなるんだよ。で、これが角田光代だととんでもないレベルまで追い込むんだけど(角田は最後に突放す)、でも奥田は優しいんだ。最後にぐっとくる逃げ道を用意する。そこがほんとに上手なのね。
だから読んでいる僕らも安心する、まだまだ人生捨てたもんじゃない、すすめーってね。そこの優しさで奥田を読む人もいるんじゃないかしらんとふと思う。
話しは全部で5つ。年上の部下のできた女上司、マンションを買おうとする女、バブル過ぎた三十過ぎのもう若くはないって女、シングルマザー、そして若い部下にのぼせ上がる女。
どれも一癖二癖でその女たちをおちょくり、乱し、混乱させながらも最後には「そこそこの優しさ」を用意する。それが奥田の上手さだ。取り立ててな話しではないけれどそこに安定感があるんだよ。
考えてみれば「家日和」でも「我が家の問題」でも「ララピボ」ですらも、奥田は決してそんなに派手でないことを扱っていた。それはこの作品もそう。だからこそ等身大、だからこそ現実的って訳なんだよね。僕はこんな奥田が好きだ。
もう一個褒めるところ。文章の上手さ。この流れるような安定感はなかなか書けない。あのね、軽妙な文体ってのは読んでいる人が「止まらない」ってことなわけ。それを奥田は難なく再現しているんだよな。だからストレスフリーで読める。これ実はエンタメではかなり大事でこのような文章を書ける作家はなかなかいない(特にミステリではいない。無念)。伊坂や道尾でも僕はたまに止まってしまう。ここまでするっとかけるのは宮部くらいじゃないかしらんってふと思うんだよな。