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本と珍スポと教育と

本について語ります。珍スポットについて語ります。あとたまに教育について語ります。ゆるゆるとお読みください。

イギリスの変人は凄い「解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯」(ウェンディ・ムーア)

ジョン・ハンターなる人物を知っているだろうか。


ドリトル先生のモデルになった人で有りながらジキルとハイドのモデルにもなった、18世紀イギリスに現れたブラックジャック、それがジョン・ハンターである。

『解剖医、ジョン・ハンターの数奇な生涯』ウェンディ・ムーア

現代は「The Knife Man」。こっちのが格好いいのになぁ。訳者はどう考えているんだろう。

さて、この本、18世紀のイギリスで現代手術の基礎を築いた、ジョン・ハンター先生の生涯を描いた伝記である。

ええー、伝記・・・のび太のお父さんが買う、えらい人の話しかぁ・・・・

ってそんなつまらない物ではないぞ。たしかにこのハンター、最後にはえらい人になっているけれどとにかく奇人・変人なんだよな。そして無茶苦茶な人でもある。そんなハンターの生涯をこの本は克明に語ってくれるってわけ。

まず解剖医になったきっかけから笑う。ハンターは20過ぎてもぶらぶらしていたのだが解剖医の兄に言われてとにかく解剖をやってみるのね。そしたらとんでもなくうまい。なんでも解剖にして標本にしてしまう(天才だったんだろう)。解剖に味をしめたハンターはそこかしこで老若男女、人間動物問わず解剖する。これ、マッドサイエンティストだよなぁ。当然そんなに解剖する献体が出てくるわけもなく、ハンターは夜な夜な怪しげな団体と付き合い、「死体」を買い取るんだよね。怪しい。

ここがこの本では出色でお金を払い「死体」を買い漁る訳よ。やばい人だ。解剖に関しては読むと御飯が食べられなくなる描写満載。おえええ。それではハンターのナイスエピソード。当時のイギリスに巨人が来たんだけど(身長2m越え)、ハンターは解剖したくて仕方ない(やっぱヤバい人だ)。そこでその巨人に交渉し「あなたが死んだら解剖してもいいですか」って手紙まで出す。

いやこれいやだろ。巨人は当然断るんだけどハンターはまだ諦めない。そのうちに巨人は病気で死んでしまった。しめたと思ったハンターは葬儀屋と結託して巨人の死体を盗み、骨格標本の作製に成功する。

この本の挿絵では巨人の骨格標本の前でドヤ顔のハンターを拝むことができます。アホだよ、あんた。。。ハンターはその他、有名人の標本を集めることをコレクションにしており(そういえばベンサムは死んだあと首だけミイラにしたっけ)家にはその手の標本があるのをご満悦で眺めていたという。

またハンターは動物が大好きで(飼うのも好きだし、解剖も好き)自分の邸宅に大量の動物を飼いならす。ここらへんがドリトル先生のモチーフになっているのかな。ただしすぐ動物の解剖や臓器移植なんかもやっちゃう。ヤギに鹿の角とか移植しようとするんだから。動物はいい迷惑かもね。合言葉は「これも科学のためだ!」。マッドサイエンティストだよ。

ハンター先生は好奇心旺盛でとにかく実験をしてみないと気が済まない。梅毒や淋病が流行っていたので自分のペニスにも患者の膿をハンターは移植してみる。自分が献体ってわけね。ああああ、読んであそこがむずむずするううう。「四日目にはペニスはたまらないかゆみを帯びていく」。あああああああ、やめてハンター。

とこんな変な先生だがなかなか医学的知見には長けている。まず従来の治療法でも治らないものにはさっさと見切りをつけ、新しい治療を提案している。さらに自然治癒力の力もハンターは見つけ、治すよりほっておくほうが結果は良くなるということも語っている。

また集めたコレクションから生物の進化過程にも興味を持ち、すべての生物は進化していると確信する(実にダーウィンが進化論を唱える50年以上も前にそんなことを語っているのだ)。彼にとって「標本」こそがすべてを語っているのかなと思った。

その他、数多くの医学的発見をハンターはこともなげにやってのける。これは読んでのお楽しみ。

まあ、読んだ感想としては医学ってこうやって発達してくものだというのがしみじみな感想。そしてなかなか最初に知見は世に解釋されないんだなということも感じた(実際、ハンターはかなり敵が多かった)。僕としてはこんな面白い人が世の中にいたんだということが吃驚。いや立派な人なんだけど読めば読むほどマッドサイエンティストだよ。それだけでもかなり面白い本なんだけどね。あと当時のイギリスの躁的な感じもこの本は書いているのでイギリス史としてもおすすめできるかも。

 

解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯 (河出文庫)

解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯 (河出文庫)